大判例

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東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)242号 判決

一 請求の原因一、二の事実並びに審決の理由の要点1、2及び3の(一)、即ち、本件意匠及び引用意匠がそれぞれ別紙(一)及び別紙(二)のとおりであること、本件意匠と引用意匠とは意匠に係る物品が一致しており、その形態は全体の形状をゆるやかな凸球面状とした透明体よりなる蓋本体の周縁部に不透明な環状縁体を形成した基本的構成態様が共通であり、また、各部の具体的構成態様においても、環状縁体が上縁周側を隅丸状とした点、下方周側に鍋に嵌合するための段差部を形成している点で共通であること、両意匠が蓋本体の中心における透孔の有無に差異があること及び右差異が部分的な改変に過ぎないことは当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決取消事由について検討する。

1 審決の取消事由その一について

(一) 本件意匠及び引用意匠の図面であることについて当事者間に争いのない別紙(一)及び(二)によると、 本件意匠と引用意匠の蓋本体の高さと直径との各寸法比、 両意匠における環状縁体の縦巾と蓋本体の高さの各寸法比、 両意匠における環状縁体の横巾と蓋本体の直径の各寸法比(上方から見たときと下方から見たときを含む)が概ね原告主張のとおりであることが認められる。

(二) 右の各寸法比を見ると、については数値の上でも殆んど差異はないが、及びについてはその数値上の差異によつても窺われるように、環状縁体の縦巾は本件意匠が引用意匠に比較して大きいことから、本件意匠の環状縁体が引用意匠のそれよりもやや縦長であるとの印象を与え、また、環状縁体の横巾は本件意匠が引用意匠に比較して小さいことから、本件意匠の環状縁体が引用意匠のそれよりもやや細いとの印象を与えるものである。

(三) そこで、右相違点について検討するに、意匠は、全体として看者の視覚を通じてその美感に訴えるものであるから、意匠の類似性の有無に関する判断は、意匠全体の総合的観察によつて得られる印象(美感)に基づいて決せられるものであり、計測上の数値(寸法比)は右判断に際して補助的な意義を有するに過ぎず、その大小を比較して意匠の類否が決せられるものでないことはいうまでもない。そして、本件意匠と引用意匠とが共に全体の形状をゆるやかな凸球面状とした透明体よりなる蓋本体の周縁部に不透明な環状縁体を形成した基本的構成態様を共通にする(このことは前述のとおり当事者間に争いがない。)ものであるところ、前記及びに関する差異は、その中でのただ環状縁体において本件意匠のそれが引用意匠のそれに比較してやや縦長でありかつやや細いという印象を与える程度の差異にとどまるものである(環状縁体の寸法は蓋全体の大きさからすれば小さいものであり、横巾の大きい引用意匠にあつても蓋本体の直径との比は約1/13に過ぎない。)。

そうしてみると、両意匠を全体的に観察して得られる右の相違感は、前記基本的構成態様及び具体的態様における共通点から得られる両意匠の共通感を左右する程に看者が注意を惹くものでないことは明らかである。

原告が引用する判例は、本件と事案を異にするものであつて適切でない。

(四) 従つて、審決が両意匠の相違点<1>について部分的な改変に過ぎず全体の具体的構成態様を著しく変更したと認められる程の差異ではないと判断した点に誤りはなく、原告の審決取消事由その一の主張は採用できない。

2 審決の取消事由その二について

(一) 別紙(一)及び前掲当事者間に争いのない事実によると、本件意匠の環状縁体は板状体を折曲げたものであり、その下方外周側は鍋に嵌合するための段差を形成し、その上方外周側及び下方の外周、内周側がいずれも丸みをもたせたものである。

(二)一方、別紙(二)及び前掲当事者間に争いのない事実によると、引用意匠の環状縁体は棒状体の下方外周側には本件意匠と同様鍋に嵌合するための段差部を形成し、上方外周側は丸みをもたせ、下方の外周、内周側は角状を呈しているものである。

(三) そこで両意匠を対比すると審決の認定する相違点<2>のほか、環状縁体の下方の外周、内周側が丸みをもたせているか角状を呈しているかの点及び鍋との嵌合部の段差が本件意匠の方が引用意匠に比較してやや大きい点で差異がある。

しかしこれらの差異は、既に述べた両意匠について共通感を懐かせる基本的構成態様と対比すると明らかなとおり、右基本的構成態様の一つの要素である環状縁体の中のしかも極めて局部的な差異にとどまるものであり両意匠を全体的に観察した場合に極めて微弱であつて、両意匠の前記共通感を左右する程に看者の注意を惹くものでないことが認められる。

従つて、原告の審決取消事由その二の主張も採用できない。

3 審決の取消事由その三

(一) 別紙(一)、(二)及び前掲当事者間に争いのない事実によると、本件意匠における蓋本体は略一定曲率をもつた凸球面状に形成されており、一方、引用意匠における蓋本体は上方部(中央部)を平坦状とした凸球面に形成されていることが明らかである。

(二) しかし、このような差異は、前述のとおり共に全体的形状をゆるやかな凸球面状とした両意匠の透明体の蓋本体中の上方部(中央部)における局部的差異であり、しかもその程度は両意匠に係る図面の横断面を同率の縮尺のもとに重ね合わせて漸く認識できる程の僅少な差異であり、両意匠の前記共通感を左右する程に看者の注意を惹くものではない。

よつて、審決が両意匠の相違点<3>について、注意を集中してやつと気付く程度の微差であるとした判断に誤りはなく、原告の審決取消事由その三の主張も採用できない。

4 以上のとおりであつて、原告主張の審決取消事由はいずれも失当であり、審決にはこれを取消すべき違法の点はない。(なお、1ないし3に述べた本件意匠と引用意匠との相違点を併せ考慮しても、両意匠が類似するとの判断は左右されない。)

三 よつて、原告の本訴請求を失当として棄却する。

〔編註〕 本件の特許庁における手続の経緯は左のとおりである。

原告は、意匠に係る物品を「煮炊具用蓋」とする登録第六二九七一〇号意匠(昭和五一年九月一三日出願、昭和五九年四月二五日登録、以下「本件意匠」という。)の意匠権者であるところ、被告は昭和五九年八月二五日原告を被請求人として本件意匠の登録を無効とすべき旨の審判を請求した。特許庁は、これを同年審判第一六六八二号事件として審理した上、昭和六一年八月一一日本件意匠の登録を無効とする旨の審決をし、その謄本は同年八月二三日原告に送達された。